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大阪高等裁判所 昭和60年(行コ)32号 判決

大阪市東区伏見町二丁目七番地

控訴人

廣芝産業株式会社

右代表者代表取締役

廣芝義賢

右訴訟代理人弁護士

上辻敏夫

中村嘉男

大阪市東区大手前之町

大阪合同庁舎三号館

被控訴人

東税務署長

松谷理

右指定代理人

田中治

足立孝和

井上正雄

辻田孝章

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  控訴人

(一)  東淀川税務署長が控訴人に対し、昭和五七年三月三一日付でした控訴人の昭和五一年五月一日から同五二年四月三〇日まで、昭和五二年五月一日から同五三年四月三〇日まで、昭和五三年五月一日から同五四年四月三〇日まで、昭和五四年五月一日から同五五年四月三〇日まで、昭和五五年五月一日から同五六年四月三〇日までの各事業年度の法人税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分を取消す。

(二)  東淀川税務署長が控訴人に対し、昭和五六年一二月二五日付をもつてした控訴人の昭和五二年四月分、同五三年四月分、同五四年四月分、同五五年四月分、同五六年四月分の源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分を取消す。

(三)  訴訟費用は被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(控訴人)

1  所得の帰属は、形式的な営業名義、法律関係によつて決定されるべきではなく、実質的な営業活動により生ずべき利益の帰属関係如何、正に何人の収支計算においてなされたか否かにより決定されなければならない。ところで、本件賃貸建物部分は、当初、訴外大阪貴金属化工が控訴人から賃借していたものであるところ、右訴外会社は、訴外廣芝義賢の個人会社であり、昭和四四年頃から営業活動をしていなかつたので、昭和四九年一〇月一日に解散したものとみなされたのちも清算手続がなされなかつたが、それは、訴外廣芝義賢が控訴人及び訴外大阪貴金属化工の利益を考え、右訴外会社の地位を訴外廣芝義賢個人において引き受けたからにほかならず、控訴人、訴外島久薬品及び訴外大阪貴金属化工との間で、従前の賃貸借関係を変更する話し合いがなされたことはない。

2  乙第七号証は、訴外島久薬品が控訴人に対して本件賃貸建物部分の賃料を支払つていたことを証するものではなく、却つて、訴外廣芝義憲が個人としてこれを受領していたものであることを実証している。また、乙第八号証の一ないし一五は訴外廣芝義憲を名宛人として作成されており、乙第二号証の一ないし三には、貸主の名称欄に控訴人名義が記載されているが、これは原賃貸人である建物の所有者が表示されたにすぎない。

3  訴外廣芝義憲が自己の賃料収入を正確に申告しなかつたのは、奈良新聞社社長として多忙を極めていたため、その処理を税理士谷正仁に委せきりにしていたことにあるが、右訴外人が右資料につき個人申告をしなかつたから同人の取得ではないとするのは背理である。控訴人の収入になつていない本件賃料につき、控訴人に対し、法人税更正処分並びに重加算税の賦課、所得税の納税告知処分並びに加算税の賦課をするのは、二重課税であつて違法である。

(被控訴人)

1 訴外廣芝義憲が本件賃貸建物部分につき訴外大阪貴金属化工の転貸人たる地位を引き継いだことは争う。

2 乙第七号証には、三国産業株式会社(控訴人の旧商号)に対する訴外島久薬品の賃貸料は、右訴外会社及び控訴人の代表取締役を兼務する訴外廣芝義賢に渡されており、同人の地位及び資格等により過去から領収証を受け取つていない旨記載されていることからすると、訴外島久薬品は控訴人から本件賃貸建物部分を賃借し、控訴人の代表取締役としての訴外廣芝義憲に対して賃料を支払つていたが、同人が両社の代表取締役であることから、あえて同人から領収証を徴する必要がなかつたという意味に解すべきである。また、訴外廣芝義憲が訴外大阪貴金属化工の代表取締役も兼ねていたので、訴外島久薬品は、訴外大阪貴金属化工の解散前は同社の代表取締役としての訴外廣芝義憲に対し、また、訴外大阪貴金属化工の解散後は控訴人の代表取締役としての訴外廣芝義憲に対し右賃料をそれぞれ手渡していたのであるから、訴外島久薬品としては、訴外大阪貴金属化工の解散後においても右賃料の支払形態を変更する必要はなかつたのである。その余の乙号証についても、控訴人の主張は争う。

3 本件賃貸建物部分の賃料収入は控訴人に属すべきものであるところ、訴外廣芝義憲が右賃料収入にかかる金員を株式会社南都銀行大淀支店の同人名義の当座預金に入金し、かつ、右金員は当該口座の他の入金を併せて、同人が個人的支出にあてていたのであり、したがつて、被控訴人は、本件係争各事業年度における控訴人の確定申告書には右賃料収入に係る益会計上漏れがあるとして法人税の更正処分等をなし、また、右賃料収入に係る金員は控訴人に帰属すべきものを訴外廣芝義憲が個人的に費消していたので、控訴人から同社の代表取締役である同人に対し役員賞与が支払われたものとして、源泉所得税の納税告知処分等をなしたにすぎず、役員賞与相当額について、法人税の課税と賞与の支払いを受ける役員個人に対する所得税の課税とは二重課税には当たらないことは明らかである。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求をいずれも失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は次に付加するほかはいずれも原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する(但し、原判決一四枚目裏七行目の「その後現実に原告自身において使わず」とあるのを、「直ちに株式会社南都銀行大淀支店の訴外廣芝義憲名義の当座預金口座に振り込まれ、その後現実に原告の営業の用に供されず」と改める。)。

二  控訴人は、訴外大阪貴金属化工が解散したのちは、同社の代表取締役である訴外廣芝義憲が同社の本件賃貸建物部分の転貸人たる地位を引き継いだ旨を主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、却つか、成立に争いのない乙第五号証の一、二、同第九号証、原審証人小倉陽の証言及び控訴人代表者本人尋問の結果によれば、訴外大阪貴金属化工は昭和三五年九月硝酸銀の製造を目的として設立された会社であり、控訴人から本件賃貸建物部分の一部を工場として使用するため賃借していたが、昭和四四年頃までにその営業活動を停止し、右訴外会社に替つて訴外島久薬品が右工場を使用するに至つたこと、その後訴外島久薬品は、昭和五〇年末頃及び昭和五三年五月頃にかけて控訴人が訴外内田洋行に賃貸していた本件建物部分(右工場を除く残余の部分)の返還を受けたので、これらを併せて賃借使用したこと、以上の事実を認めることができるところ、訴外大阪貴金属化工は昭和四九年一〇月一日に解散したものとみなされて以後の三年内に商法三四三条所定の株主総会の決議により会社継続の手続を経由したことを認めるに足る証拠もなく、結局、同社の法人格は消滅したものというべき事情にある(昭和四九年法律第二一号附則第一三条第二項)ことに照らすと、本件賃貸建物部分につき訴外廣芝義憲が訴外大阪貴金属化工の貸借権を引き継ぎ或は訴外内田洋行の有していた賃借部分の権利を取得したものと認めることはできないものというべきである。

三  控訴人は、乙第七号証が訴外島久薬品において賃料を訴外大阪貴金属化工又は訴外廣芝義憲に支払つてきたことを証するに足るものであると主張するが、同号証がそのような趣旨のものでないことは、原審の認定説示するとおりであり、同号証の冒頭に「三国産業(株)への家賃支払の件」と題されている点からみても疑いの余地はない。乙第二号証の一ないし三、第八号証の一ないし一五に関する控訴人の主張は、右各号証の記載内容に徴して到底採用することができない。なお、控訴人は、本件各課税処分が二重課税であつて違法である旨主張するが、原判決添付別表(三)の「〈7〉差引金額」の欄に記載の金額が訴外廣芝義憲に支給した賞与に当たるものであること前叙来のとおりである以上、これについて法人税の課税と個人に対する所得税の課税とが二重課税にあたらないことは明白である。

四  よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 畑郁夫 裁判官 遠藤賢治)

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